福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援 研究室

榊原 信子

連合大学院博士課程D1

みなさん、こんにちは。今年の4月から福井大学附属病院子どものこころ診療部に勤務しています臨床心理士の榊原信子と申します。福井に来て5か月。毎日山を眺め、九頭竜川を渡り、ちょっと足を延ばせば日本海があり、温泉があり・・・。四季の移り変わりを五感で感じる生活に癒されています。   私は東京の下町、葛飾区出身で高校まで過ごしました。以前であれば「男はつらいよ」の寅さんで有名な・・・なんて自己紹介していましたが、最近では寅さんを知らない世代も増え、働き盛りの方には「こちら亀有警察署(通称こち亀)」の両津勘吉(両さん)の舞台の・・・、さらに若い方だとサッカー漫画「キャプテン翼」って知ってますか?なんて自己紹介することが増えました。ちなみに葛飾区の実家近くからはスカイツリーもよく見えます。   そんな私は福井に来る今年3月まで、葛飾区のお隣の千葉県市川市保健センターで19年間、母子保健担当の臨床心理士として仕事をしていました。

保健センターの母子保健のお仕事は、赤ちゃんが生まれる前の妊婦の時期からお母さん、お父さんを支援し、生まれた赤ちゃんとご家族が健康で過ごせるよう支援する機関です。だから窓口には、毎日のように出産前の妊婦さんが母子手帳を取りに来ます。生まれて間もない赤ちゃんには保健師や助産師が訪問に行きます。この「赤ちゃん訪問」は厚生労働省が虐待予防の事業として、数年前から必ず全ての家庭に訪問することになりました。そして赤ちゃんが4か月になると「4か月講座」が開催され、「1歳6か月児健診」や「3歳児健診」「健診の事後フォローのグループ」や「育児相談・発達相談」「歯科健診」「栄養相談」など、子どもの心身の健康を守る為の事業が毎月開催され、毎日のようにお子さん連れのご家族が保健センターにやってきています。保健センターに来談する以外にも、訪問や健診で支援が必要だと思われると、地区を担当している保健師が電話や訪問で支援します。だから電話相談等があると、名前の他に住所を確認することが多く「○○町の××ちゃんの母から相談があったよ」と連絡が入ると、電話相談の後も、しばらく様子を見ながらまた電話をしたり、訪問したり・・・ということを、30名以上もいる保健師が毎日のようにやり取りし、親子の健康を見守っているのです。

市川市の場合、臨床心理士は2箇所の保健センターに一人ずつ配置されていました。そして地区を見守る保健師から、さらに専門的に子どもの発達や行動、親子関係、保護者のメンタルヘルスについて相談して欲しいといった依頼があると、健診や個別の相談、健診事後のグループ等で、乳児から就学前までのお子さんとその保護者の方を対象に相談や支援等を実践してきました。しかし、相談の多くは1〜2歳のお子さんを持つ母たちが中心です。日常のことで「来年から幼稚園なのに友達と仲良く遊べない」「一人だけ走り回ってる」「お着替えが出来ない」「ことばが遅い」「おむつが取れない」「言うことを聞かない」等々様々です。「まだ小さいから様子を見ましょう」と言いがちなところを、お子さんの発達タイプと母が出来そうなことを探りながら、日々の具体的対応を一緒に考えていくのが臨床心理士の仕事です。一緒に考えてやってみた結果は、地区の保健師と母たちが一緒に確認し、必要ならばまた来談することもありますが、多くは一度の相談で、あとは保健師の活動を通して、その後のお子さんや母の成長を見守り、必要に応じてお子さんや母に合った他の社会資源を紹介したりていきます。悩みを解決したくてくるのは母たちですが、毎日の相談の積み重ねは、私に沢山のことを教えてくれました。   市川に勤め始めた頃です。「多動症」という言葉が流行りました。まだ発達障害の概念が出来る前の頃で、とにかく動きが多いと「多動症と言われた」と相談に来るのです。保健師も3歳児健診等で走り回っていると「多動症かも」と、すぐに臨床心理士の相談に回します。しかし個別に1対1でお子さんと遊ぶとよく遊べるのです。今では周知のことだと思われますが「注意欠如・多動症(ADHD)」はどんな場面でも終始落ち着きがなかったり、衝動性の高さが垣間見られます。そして、この時、母から出た話は「家では言うことを聞かないので怒ってばかり。父親も叩いてしつけている。」という言葉で、児の関わり方に母が困り果てているということがわかったことがありました。   別の相談です。生まれて間もない2か月の赤ちゃんと母、そしておばあちゃんの3人で「この子は目も合わないし、自閉症かもしれない」という相談がありました。部屋に入ってきた時、赤ちゃんを抱いていたのはおばあちゃんで、娘の母があまりにも心配するので、田舎からわざわざ出てきたというのです。ひとしきり母と話をしていると、突然赤ちゃんが泣きだしたのです。すかさずおばあちゃんが抱くと赤ちゃんは泣きやみました。そこで母が一言「私が抱っこしても泣き止まないのよね」と。普段の生活では母と赤ちゃんは日中二人きり。「泣いたらオムツが濡れているか、お腹が空いているか」と思っていた母は、泣いたらおむつを取り替え、ミルクを上げていたそうです。それでも泣きやまないこともあり、抱っこしたようなんですが、母がこわごわ赤ちゃんを抱くので落としそうな感じです。赤ちゃんも不安でさらに泣いてしまうということを繰り返すうちに、赤ちゃんが泣いても放っておくことが増えたと涙を流されていました。   発達障害や虐待の早期発見、早期支援で情報やスキルばかりが先行する中、母の気持ちや日常にちょっと寄り添うだけで見えてくることがあると、相談を通して感じることは度々あります。そして、発達障害っぽい行動をとる子ども達の中に、発達障害児や定型の子どもたちの対応ではうまくいかない子どもたちがいることも、ずっと気がかりでした。被虐待児のペアレント・トレーニング(CSP)や、ADHDのペアレントトレーニングの要素を取り入れた育児講座を開催したり、親子グループでも取り入れてみましたが、しっくりいかない子どもたちがいる。杉山登志郎先生の「第4の発達障害」という本を読み、納得したのを覚えています。そしてある学会で友田先生の「虐待と脳」の講演を聞き、「あー、やっぱり日々臨床で感じていたADHDや自閉症っぽい行動をとる子どもたちの中に、環境によって脳に違いが出てしまっていた子もいるかもしれない」と衝撃を受けたのです。それがもう5年前のことかと思います。   そして今、私は脳機能からみた養育者支援をしたくて福井の友田研究室にお世話になることになりました。自分が臨床で感じてきたことに何らかのエビデンスを持ち、子育てに苦労する保護者の方に役立てるような研究がしたいと福井県に参りました。微力なことは重々承知でおりますが、皆様のお力を借りて、何とか頑張っていけたらと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。