福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援 研究室

島田浩二

特命助教

こんにちは,福井大・子どもセンターの島田です。

リレーバトンを受けて走者になるのは中学校の運動会以来です。 当時は陸上競技部に所属し,比較的速く走れる子どもでした。 しかし,中学2年頃には瞬発的に速く走る短距離種目に限界を感じ, 持続的に速く走り続ける中距離種目(例,800m)に転向しました。 子どもの頃の自分にとっての大きな決断(選択)の1つになります。 その結果は,中学3年のときに地区大会の800mの8位入賞でした。

・・・といった子ども時代の話はここで置いておきましょう。

私は,今年の4月より福井大に所属することになりました。 専門は認知神経科学(以下,脳科学と呼称)になります。 言語や社会能力に関わる脳の働きの解明を目指して研究してきました。 ここでは,発達という観点を取り入れ,脳の働きを調べていきます。

脳の発達が生まれつき定型とは異なるのが発達障害とされます。 その違いは脳の中のどこの部位でどのように現れるのでしょうか? 脳科学研究の発展により発達障害のより深い理解が期待され, そしてその理解に基づく介入・療育方法の開発が期待されています。

それでは,脳の働きはどのように調べられるのでしょうか? その方法の1つには,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)があります。 神経細胞の活動が活発な脳部位には,酸素とブドウ糖が必要となり, それらを運ぶ血液はその部位に向かってどんどん流れていきます。 この血液の流れ(血流)をMRI装置によって検出するのです。 もちろん,脳や体を傷つけることなく撮影することができます。 広く世界中の医療および研究機関で使用され, 安全基準が確立されているので,安心して撮影を受けられます。

脳科学研究では,どのように研究が進められているのでしょうか? そこでは,脳機能マッピングという研究アプローチが取られます。 特定の心的機能を特定の脳部位に対応づけることを試みます。 ただし,機能と部位が1対1に必ずしも対応づくわけではありません。 ある機能を実現するシステムの構成要素の解明を目指すと言えます。 (さらには脳部位の間の関係性を明らかにする研究に進んでいきます)

では,言語機能の1つの「読み」が対応づく脳部位はどこか? そして「読み」に選択的な障害がある学習障害との違いは何か? (特異的読字障害または発達性ディスレクシアと呼ばれる) また,学習に難しさがある外国語の「読み」との違いは?

これまでの脳科学研究ではたくさんのことが分かってきました。 ここでは,いくつかの研究について簡単に紹介させて頂きます。

0.その紹介の前に「特異的読字障害」の定義とは何か? 全般的な知能,視覚などの末梢感覚器,環境や意欲に問題がない, それにも関わらず,読むことにおける習得困難が見られる状態。 と定義されています。

1.まず,読むことには,単語形態の処理が必要とされます。 単なる線の模様を,書き言葉として認識することに関わります。 この処理機能には,左半球の側頭ー後頭領域が対応するとされます。 読字障害では,この脳部位の機能不全・低下が認められています。 (定型発達に比べて読字障害ではこの部位の働きが低下しています)

2.次に,読むことには,文字ー音変換の処理が必要とされます。 書き言葉から,音情報を抽出し話し言葉に変換することに関わります。 この処理機能には,左半球の頭頂ー側頭領域が対応するとされます。 読字障害では,この脳部位の機能不全・低下が認められています。 (定型発達に比べて読字障害ではこの部位の働きが低下しています)

おそらく次の疑問は読字障害への特別な介入・療育の効果はあるのか?

3.介入・療育研究の成果として分かってきていることは, 特別訓練プログラムが,読字障害の読み技能を改善させるだけでなく, その技能に関わる脳部位の働きを変化させるということです。 先に紹介した左半球の脳部位の機能低下が標準活性に向かうのです。 また,右半球の相同部位の働きが訓練に伴いより活発になるようです。 (右半球の働きは,左半球の脳部位の働きの補償と解釈されます)

しかしながら,読字障害の脳科学研究に課題も多く残されています。

4.例えば,読字障害の個人差の問題のさらなる検討が必要です。 先の機能低下以外の問題を抱える読字障害も存在すると言えます。 読字障害のサブタイプの体系・再編のさらなる理解が待たれています。

5.また,読字障害の文化差の問題もさらに検討が必要でしょう。 英語アルファベットと中国語漢字の間での違いがあるのかどうか。 さらには,日本語の仮名はどうだろうか。などなど。

その他,まだまだ研究が進まなければいけないのですが, アクション・ゲームによる訓練効果という興味深い知見が出ています。 その訓練では,読みに関わる文字や音変換の処理は含まれていません。 それにも関わらず,興味深いことに訓練効果が認められるようです。 視覚注意機能が向上し,それに伴い読みが改善されたと解釈されます。 個人差,文化差,学習段階を考慮してさらなる研究が期待されます。

最後になりますが, 脳科学研究と特異的読字障害について,お話をさせて頂きました。 このエッセイを読んでもらい,この分野の関心が広がれば幸いです。 私は駆け出しの研究者で,まだまだ未熟なところがありますが, (もし理解が不十分な点がありましたら,遠慮なくご指摘ください) 瞬発的に素早く,そして持続的に根気強く走れるように, 研究を進めていきたいと思います。温かく見守ってください。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。