福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援 研究室

高田紗英子

臨床心理士・RISTEX研究員

皆様、はじめまして。 この4月から福井大学子どものこころの発達研究センターに着任いたしました、臨床心理士の高田紗英子と申します。

まずは少しだけ、自己紹介をさせていただければと思います。 私の出身は兵庫県で、中学・高校と地元の学校に通っていました。 大学進学時には、「英語と心理学を両方学びたい」という単純な理由から、 アメリカの大学に進学し、臨床心理学を専攻しました。 帰国後は大阪大学大学院に進学し、修士論文では里親・養子縁組家庭で育った方の自己受容プロセスについて研究を行いました。 臨床心理士の資格を得てからは、児童養護施設、学校現場、心療内科、精神科等々さまざまな現場で実践を積んでまいりました。

ここ数年、主に携わってきたのは、事件や事故、災害など何らかのトラウマ体験に遭遇しPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された方々です。 自分や自分の大切な人が、死んでしまうかもしれない重篤で悲惨な出来事に巻き込まれたあと、心身に起こるさまざまな反応を「トラウマ反応」といいます。ひどい体験をしたあとで、心身が一時的に不調になるのはごく自然な反応ですし、大きな災害や事故にあった人が、必ずしも全員トラウマに悩むというわけではありません。トラウマの受け止め方には個人差があります。しかし、トラウマによる影響が1ヵ月以上続き、それによって日常生活が困難になっている場合、「PTSD」という診断がつくことになります。

アメリカの精神医学会による診断基準では、PTSDの症状は4つにわかれています。まずは、「侵入症状」とよばれ、自分の意思とは関係なくトラウマとなった出来事が頭の中に繰り返し、蘇る状態で、フラッシュバックとも呼ばれます。2つめは「回避症状」と呼ばれ、トラウマに関連した考え・気持ち・思考を持たないようにしたり、トラウマを思い出させるものを避けること(例えば、水難事故に遭った人がお風呂に入れなくなるなど)を指します。3つめは、「認知や気分の異常」といって、トラウマに関連した重要な部分を思い出すことができなくなったり、過度に自分を責めたり、これまでは楽しめていたことが楽しめなくなったり、他者との交流を避けるなど、社会生活が阻害されてしまいます。最後は「覚醒や反応性の異常」といって、少しの刺激で過剰に反応したり、イライラしやすくなったり、集中困難や睡眠困難というかたちで表れます。

PTSDの患者さんへの治療法はさまざまありますが、治療のスタート地点であり、治療全体を支える基礎となるのは「心理教育」であると私は考えています。 「心理教育」とは、本格的な治療に入る前に、治療者との面接で、「トラウマとは何か」、「PTSD症状とは何か」を学ぶことを指します。この心理教育は、状況に応じて、治療に入ってからも繰り返し行います。心理教育を行うメリットは、以下の4つがあります。

  1. PTSD症状を理解できる
  2. PTSD症状は、「異常な出来事」に対する「正常な反応」だと考えられるようになる
  3. トラウマ体験により、考え方が変化していることを自覚できる
  4. 回復の見通しを立て、患者さん自身に本来備わっている回復力を引き出すことができる

これは、発達障害の子どもさんや、発達障害のお子さんを持つ養育者の方々にも、役に立つ考えではないかと思っています。

近年ではメディアの情報もあり、一般の方でも発達障害に関してさまざまな情報にアクセスすることができます。 試しにGoogleで「発達障害」と検索すると、なんと11,900,000 件のヒットがありました。 その中の情報は玉石混淆で、お一人お一人にぴったりくる答えを見つけるのは、相当の難しさがあると思います。

ですので、まずは親御さんが「発達障害とは何か」、「発達障害の症状にはどんなものがあるのか」についての正しい知識を持つことが大切になるかと思います。 そしてゆくゆくは、お子さんと一緒に発達障害についての理解を深めていくことも必要になるかもしれません。 「なんだか分からないけど、困ったな」という状況は、かなりストレスフルなものです。 ひとりで悩まず、お子さんのことで気がかりなことがある場合には、周りの人に相談してください。 障害について、正しく理解することは、怖いことではありません。 障害について、正しく理解することは、きっとお子さんや親御さんの役に立ちます。

私も、正しく、お役に立てる知識を皆様と共有できるよう、精進していきたいと思います。 どうぞよろしくお願いいたします。