濱村尚子
連合大学院博士課程D4・鹿児島大学病院神経科精神科
平成31年4月より福井大学医学部附属病院子どものこころ診療部で外来診療をさせて頂いております精神科医の濱村尚子と申します。私は鹿児島県出身で、平成31年3月までは鹿児島大学附属病院や、鹿児島県立姶良病院で精神科医として勤務しておりました。
もともと、中学生の頃に読んだ本や漫画がきっかけで「人の心を救える仕事がしたい」と思い、精神科医を志し医学部に入学しました。医学生として学んだ精神医学は、中学生の頃に想像していた世界とは少し違い、エビデンスに基づいた科学的な治療が多くあることを知りました。一方で人の脳や心は「ブラックボックス」と言われるように、分かっていないことも沢山あり、研究の発展とともに今後解明されていく期待、魅力を感じました。しかし、実際に精神科医として働くようになってからは、理想通りに治療が進まないことも多く、また、医療だけではどうしようもない社会的な問題に多く直面しました。精神障害を抱えながら地域や社会で生きていくために、本人にとっての幸せ、家族の思いに加えて、行政や地域との連携は必要不可欠です。そこに精神科医療の奥深さがあると感じました。実際には、複雑な家族背景や社会的背景を抱えている場合、私自身が考える方針が本当に正解なのか分からなくなることも多く、先輩医師やコメディカルスタッフと常に相談し、確認しながら診療を進めてきました。「悩みを抱える患者様に正解を与えること、解決策を示すこと」を目指してしまいがちですが、辛い気持ちに共感し、ともに悩み、解決策を探していくこと自体が大切で、治療に繋がることを学びました。
精神科医として働く中で、多くの患者様との出会いがありました。中でも、思春期の患者様は一人一人印象深く、本人はもちろんご家族とともに悩み、考え、寄り添いながら診療を進めることに強くやりがいを感じました。また同時に、患者様に与える影響の大きさも痛感しました。子どもにとっての「先生」は特別なもので、憧れになったり嫌悪の対象になったりします。 私が担当した発達障害の患者様で、私がよく青い服を着ていたことから、退院したあとに「青いものを見ると安心できるから青いものを集めている」と言われたことがあります。とても嬉しく思いました。また、私が伝えた些細な言葉もメモに残し生活に取り入れていたり、私の髪型や持ち物を真似したりすることもありました。そういった子どもたちと接する中で、私自身が言葉遣いや身なりに気をつけようと思うようになりました。子どもたちのまだ短い人生の中で、出会い、心を交わした数少ない大人の一人となること、私の言葉や行動が、救いを求める子どもたちの心に残り、影響を与えることを忘れずに、真摯に向き合っていきたいと思います。
これまでは臨床医として働き、研究に携わった経験はありませんが、今回連合大学院への入学を通して、子どものこころ発達研究センターで研究に携わる機会を頂きました。私が最も興味のある「子どものこころ」の分野で研究できることをとても嬉しく思います。 研究テーマとしては、愛着障害や子どもたちに対するアニマルセラピーの効果、などを考えております。私が以前経験した社交不安のある思春期の症例では、犬を飼ったことで劇的に症状の改善が得られました。中でも最も大きく影響したと感じたのは、「自尊心」です。様々な失敗体験を重ね、「みんなに迷惑をかけている」と感じている子どもたちにとって、動物から愛され、求められ、その愛に応えられるという経験は、人との関わりでは得られないものだと思いました。不安や疼痛に対し、アニマルセラピーの効果があることは様々な研究で検証されていますが、子どものこころに対する治療的効果を科学的根拠を持って、証明できたら良いなと思います。 未熟な点ばかりで、診療部の皆様、研究室の皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご指導のほど何卒よろしくお願い致します。