福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援 研究室

西谷 正太

特命講師

私は、2019年6 月より、子どもセンターの特命助教になりました。米国Emory大学医学部に留学中であった私は、長崎大学在籍時からの元・同僚で、同センターの藤澤隆史先生を辿り、ここに行き着きました。また、そもそも現・センター長の友田明美先生とも、友田先生が大変に著名であったという理由だけでなく、熊本大学在籍時から、大学や研究分野が近かったこともあり、大学院セミナーをはじめ、大型助成金の共同申請、学会等を介した交流があり、10年以上前から存じておりました。そのような縁から、私はこの子どもセンターに辿り着いたのですが、まさか自分が友田先生の下で、本学の教育研究に携わることになるとは、出会った当時は夢にも思っていないことでした。

この10年の子どもセンターの活躍については、同僚の藤澤先生を介して度々伺ってきました。特に永平寺町の保健センター協力の下に開始した出生コホート(永平寺コホート)は、横断研究とは異なり、腰を据えた長い年月を投じる大変に挑戦的な研究プロジェクトだと聞いておりました。実際に、私が赴任した2019年頃は、コホート開始時には、生まれて間もない乳児だった対象児が既に満5歳を迎え、それまでの約5年間の歳月をかけて、300名以上の対象児の詳細な健診データを取り終えていたところでした。正に、センターの名称“子どものこころの発達”研究を体現し、その軌跡を追うことで、非定型/定型発達とは何かを問う、素晴らしいコホート研究だと感心しています。このような縦断研究は、一朝一夕に成し得るものではないことから、10年、20年と年月が経つ程に価値が高まるはずです。実際に抄読会で読んだJAMA Psychiatry誌では、コホート集団の脳MRIを5年越しに撮り、過去に追跡していた症状と、現時点の脳画像との因果関係を証明する、時間を超えた解析が行われていました。これは過去を振り返り評価を行うレトロスペクティブな研究とは区別されます。そこで、私はこれをヒントに、永平寺コホートを、さらに発展させる構想を考えました。友田研の十八番であり、脳研究の現在の世界標準であるMRIを、コホートの子どもたちが撮像が十分に可能な8- 9 歳になった時点で行うことです。幸い、この構想を含む研究計画はAMEDの予算的支援を受けることが決定し、センター設立10周年の節目となる2021年4 月より、満を持して始まりました。子どもセンター10周年の節目には、このMRIコホートの成果が期待されます。

コホート研究以外では、私の赴任当時までに、既に、マルトリートメント児、発達障がい児、一般対照児、母親などから得た血液、唾液など、通常、収集困難なものも含め、多くの生体試料が保管されていました。私の専門がDNAメチル化のエピジェネティクスであったこともあり、このような貴重な試料をすぐさま扱うことができたのは、この10年の子どもセンターの卓越した研究活動による恩恵だと思っています。この豊富な研究リソースのおかげもあって、現在、これら検体の殆どのDNAメチル化のマイクロアレイを終えました。特に、虐待やネグレクトなどの生後の逆境的環境が、如何なる遺伝子のメチル化に対し、エピジェネティックな影響を及ぼしているかをゲノムワイドレベルでデータ駆動型に調べ、虐待予防バイオマーカーを確立させることに力を入れています。子どもの虐待やネグレクトを未然に防ぐことに貢献できる学術的な成果を、子どもセンターが10周年を迎える前までには創出することを使命に、これからも引き続き、研究を頑張りたいと思います。