福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援 研究室

西里 美菜保

国立成育医療センター・臨床心理士

皆様、初めまして。

福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援研究室の西里美菜保と申します。現在、臨床心理士として福井大学子どものこころ診療部や県内の小学校・クリニック等で仕事をさせていただいております。心理士としては4年目ですので、こころの発達研究センターにおいても職場においても学ぶことの方が多く、今回エッセイを担当するに当たり「何をお話すればいいのか」とても悩みました。しかし「これも経験」「新しいことへの挑戦」と捉え、私の自己紹介と心理士としての短い経験の中で感じてきたことを率直にお話させていただきます。

私が“人のこころ”に興味を持ちはじめたのは小学5年生の夏だったと記憶しています。母が経営する美容室のスタッフが入院し”お見舞に”と連れて行ってくれたのが精神科の病院でした。母は見舞いをしながら目の届く範囲内で自由に行動させてくれました。私は病院の廊下や病室を行ったり来たりしながら周囲を観察…重度の方が入院する施設であったこともあり不思議な光景を見ている気分でした。母曰く「世の中にはこういう世界があるということを見せておきたかった」ということですが、小学校5年生には少し刺激が強かったように思います。それから様々な環境要因もあり、人のこころに興味を持つようになりました。こうした仕事がしたいとはっきり思ったことはありませんでしたが、子どもが好きだったり自分の関心のままに進んでいるうちに自然とこうした仕事をするようになっていました。 

福井に来る以前は東京で複数の職場を掛け持ちながら主に小中学生・大学生と関わる仕事をしました。昨年1年間は不登校の児童・生徒のみが通う小中学校で週4日、スクールカウンセラーとして子どもや教職員・保護者と関わることができ、自身の心理士として大きな経験をさせていただいたと思っています。転入してくる子は全員”不登校”を経験しているだけに「全員がケース(ケアが必要)だよ」と先輩心理士に言われ、初めはとても心理職的立場で構えていました。

しかし、学校生活を共に送る中で子どもたちの変化の様子や回復していく過程をみていると、まず私自身が一人の人間として、また子ども一人ひとりを立派な一個人として向き合うことの重要性を感じました。大人からみれば「そんなこと」「たったそれぐらい」のことで子どもの心は大きく動かされます。小さなきっかけで学校に行けなくなったり、反対に学校に来るのが楽しみになり登校が継続できたりすることもあります。子どもの中には、情緒面での課題がある子もいれば、発達の凸凹による二次障害的に不登校になってしまった子もいました。こうした子どもたちとの関わりは、心理職としての専門性がどこの場面で必要とされるかなど様々なことを考えさせてくれました。

発達の凸凹をもつお子さんに対しては生活のしやすさや具体的な対策が第一ですが、やはり気持ちに寄り添うことも大切であり、きっかけやタイミングをどれだけ大人が敏感に感じ取りつなげてあげることができるかが必要なことなのかもしれないと考えます。それも大人目線ではなく、直面する子どもの目線で考えていくことが重要であるように思います。

日常の多くの時間を一緒に過ごすということは自身の感情も大きく動かされることでもあり、本当は怒ってはいけない場面でも子どもの言葉にカチンときてしまうこともありました。普段心理職として保護者の方には、子どもと向かうときに冷静な対応をお願いすることが多くあります。頭ではわかっていてもどうしても感情的になってしまう、こうした気持ちも子どもと長い時間関わる中でわかりました。保護者の方との面談をする中で、何が正解かわからないことに「ああでもない」「こうでもない」と二人して考えてみたり、保護者の奮闘を聞いたりする中で、気持ちが少し楽になったと言ってもらった経験は、それまで子ども支援ばかりに重点を置いていた私に、母子を含めた支援の重要性を痛感させてくれました。

現在は、発達支援研究室で母子を対象に研究をさせていただいております。子どもが伸び伸びと育ち、保護者の方が子そだてしやすい環境や支援を目指して、研鑽と研究をして参ります。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

臨床心理士  西里 美菜保

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