島田浩二
助教
私は、2014年4月1日に福井大学子どものこころの発達研究センターの特命助教として 着任し、2019年4月1日からは助教として研究教育活動に取り組んでいます。専門は認知 神経科学であり、特に磁気共鳴画像法(MRI)を用いて子どもや養育者のこころの脳科学 研究に重点を置いて研究を進めています。
専門の認知神経科学の基礎には、以前に所属していた自然科学研究機構生理学研究所に おける脳画像研究分野の研鑽が重要な役割を担っています。脳画像法は、ある心的過程(例、 共感)と特定の脳構造を非侵襲的に対応づける有力な方法であり、そして、脳という物質 的な場の現象に制約する立場を取ることで、心理現象のモデルの構成と検証に寄与するこ とができます。このような脳画像法(認知神経科学)は、心理学と神経科学の分野間を結 びつける接点となり、心理学モデルの構成と検証において、心的過程とそれに付随する行 動だけでなく、その心的過程に対応する脳構造の働きに関する知見も統合することができ、 人文・社会科学や臨床医学などの多分野を含んだ学際的研究の推進に貢献できます。
現在、福井大学において、私はこれまでに培ってきた専門分野を土台に、養育や教育と いった向社会的行動に伴う脳の機能および構造の仕組みに関する研究に主に取り組んでい ます。例えば、最近の研究では、養育者の心の疲れの蓄積では、他者の気持ちを推測する 能力の認知行動面の指標が維持されているが(うつ病では維持されず低下する)、脳機能面 の指標としてその能力に関与する神経基盤の一部の右下前頭回の活動が低下するというこ とを見出しました。この現象は、養育者本人の心の疲れの深刻化(例、うつ病)に先立つ 徴候であるだけでなく、周囲の大人との対人関係性の問題(例、感情の拗れ)へと繋がり うる徴候として、養育困難や失調の予防的指標の開発に資するものと期待されます。
最後になりますが、福井大学では、子どものこころの発達研究センターの設置以前に、「脳 の発達の仕組み」や「子どものこころ」の諸問題に取り組んできた歴史があります。その 歴史を背景に、今後は、認知神経科学を主柱に、子どもや養育者のこころの脳科学研究に 取り組み、基礎だけでなく教育、臨床や福祉などの分野にも応用できるような研究を推し 進められるように精進したいと考えています。研究者として未熟な部分は多々ありますが、 学術的そして社会的にも貢献できるように仕事を進めていきたいと思います。皆様、今後 ともご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。(#2019.07.29)