福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援 研究室

山口 大輔

連合大学院博士課程 D3

はじめまして、連合大学院院生2年生で、友田先生の研究室に所属しております、山口大輔と申します。普段は、平谷こども発達クリニックで言語聴覚士をしておりまして、勝山市や福井市の発達相談にも関わらせて頂いております。研究テーマは、学齢期の発達性の読み書き障害です。

「言語聴覚士」といいますと、まだまだマイナーな仕事かと思います。コミュニケーション障害の方に対して支援する仕事でして、対象は、失語症などの脳血管障害を持たれる成人の方や、発達障害をお持ちのお子さんが中心となります。言語聴覚士の養成課程や仕事の現場において、成人の方が対象ですと、その方の失語、高次脳機能症状などのコミュニケーション症状と、脳のダメージを受けている部位を絡めてみる視点が求められます。一方で、発達障害のお子さんの療育の現場でも、注意が散漫なお子さん、注意の切り替えが難しいお子さん、対人的な情報の読み取りが弱いお子さんなど、いろいろな特性をお持ちの方がみえます。それらの特性が何からきているのか、療育場面では、課題や検査でお子さんの認知・行動特性を細かく調べることまではしますが、お子さんの発達特性を脳機能と絡めて考えるということは、私たち言語聴覚士や心理士のレベルではまだなじみが薄いと思います。

友田先生の研究室では、みなさんがチームでいろいろな研究をされています。ミーティングでお話を聞いていまして、私には難しくて理解ができないことがたくさんなのですが、幼少期の養育環境においてつらい経験をされた愛着障害のお子さんや、発達障害のお子さん、健常発達のお子さんなど、様々なお子さんの発達について、脳画像や視線計測など、大学でこそできるいろんな手法で科学的に明らかにしようとされています。療育現場でみられるお子さんの特性についても、実際は脳のどのような働きによるものなのか、というところを考慮に入れて支援を考える未来が、そこまで来ているのかもしれないと思わされます。

仕事で発達障害のお子さんの支援をしておりまして、幼児期から学齢期まで、どのお子さんについても、もちろんもともとお持ちの特性の弱さというのはあるのですが、それをきちんと理解して、育てられる環境を調整することで、その弱さがカバーされたり、ゆっくりな中にも成長していく様子がみてとれます。たとえば、2歳台で、まだコミュニケーションのやりとりに気づけていないお子さんが初めての療育でみえたときに、親御さんとお話しして、子育ての中に、お子さんへの注目を誘って、対人理解、要求行動を育てていくような関わりをお願いすることだけで、2週間後にお会いしたときに、大人とのやりとりの力がぐっと育っていた、という例は、よく経験します。受け身なタイプや、好きなもののみに没頭するタイプのお子さんですと、周りの大人の方へのアピールが少なく一人でおとなしく遊んでくれるので、一見手がかからず、忙しい親御さんにとっては助かる存在なのかもしれませんが、お子さんにとっては、大人とやりとりをして、周りの人の意図理解や、自身の気持ちを伝える経験が積み重ならないままになると思われます。動きの多いお子さんでも、大人が上手にお子さんの注意を引いて、指示を分かって応じてもらうやりとりの経験を積み重ねることで、だんだん相手に注目し、応じようとする姿勢が育っていきます。一般的な子育てから一歩踏み込んだ、個々のお子さんの特性を考慮してのオーダーメイドの環境作りを、親御さんや園・学校の先生と一緒に考えるのが療育での大事な支援なのかな、と思っています。

私が研究対象としている、発達性読み書き障害についても、同じことがいえます。このタイプのお子さんは、ことばの音の情報を分析・統合する音韻操作の力や、文字情報を見て分析する視知覚の力といった、読み書きに関係する特定の認知能力のどこかが弱くて、すらすら読めない、文字の形を覚えられないといった症状を抱えます。ただ、学校においては、教科書の音読で、数度聞くことで文章をまるまる憶えてしまって周りから気づかれなかったり、読み書き障害ではなく学業不振なだけ、とみなされてしまい、適切な支援を受けていないお子さんがまだみえると思われます。高学年になってから発見され、クリニックでお会いするお子さんで、学習内容が高度になっているため学習についていけなくなってみえたり、自己肯定感が下がっている方、不登校まで至っている方もみえます。一方で、低学年のうちに周りの先生や親御さんが気づいてあげて適切な支援を受けられた方は、相対的に予後が良く、成長されてからも、お子さん自身が自分の苦手なところを分かった上で、支援機器などを駆使されて自身の読み書きに活かしている方もみえます。

ご自分のお子さんの育ちについて、どこか発達の弱さがあるということを認めることは、親御さんにとってショックな経験だと思います。また、発達特性というものは、他のお子さんよりも遅れて育っていきつつも、大人になってもいくらかの弱さは残ることが多いのかな、とも思います。ただ、なぜ発達が滞っているのかわからず、親御さんの子育てのせいにしたり、そのお子さんにその時点で無理なことを求めるのではなく、やはり、お子さんの特性を正しくつかんで、その特性をカバーしていく環境を作ってあげることがいちばん大事なことだと思います。お子さんもいつかは大人になり、巣だっていきます。子育ての中で、お子さんの自尊心の育ちを大事にされつつ、成長して自分を顧みることができるようになったどこかで自身の特性について示唆を与え、それをどうしたら自分でカバーできるかを一緒に考えてあげることが、将来、お子さんが大人になって、社会の中で上手に生きていかれるための肥やしになるのでは、と思っています。

それで、話がもとに戻るのですが、まだ療育は、お子さんの見立てから、支援の内容に至るまで、スタッフの経験則に頼っている部分が多いと思います。未熟者な私ですが、エビデンスを明らかにして、療育現場で活かすことのできるような研究を、今後の人生で少しでもできたら、と思っております。最後まで読んで下さってありがとうございました。