福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援 研究室

八ツ賀千穂

特命助教

初めまして、八ツ賀(やつが)と申します。九州は久留米大学において小児科医になって14年経ち ますが、4年目から小児神経・小児心身症を専門としていました。10 年目の節目に、ロンドンの精神医学研究所(Institute of Psychiatry)で児童精神医学を勉強し、現在は福井大 学の子どものこころ発達研究センターに所属しながら、附属病院の子どものこころ診療部 で診療をさせて頂いています。今回のエッセイでは、そのロンドンにおける医療システム を紹介したいと思います。

イギリスは日本と同じ国民皆保険のシステムですが、GP(General Practioner:家庭医)に 登録し、専門的な治療が必要であれば紹介してもらうという制度になっています。GP を通 せば医療費は基本無料、GP を通さなければ自費診療です。このGP含めすべての医療機関 やシステムを統括しているのが、NHS(National Health Trust)という厚労省の医療保険部 門のようなところです。

医療機関はNHSによりTier1-4という4段階に分けられます。

Tier1はGPや地域の保健センター・学校の保健室などプライマリケアをする施設です。 発達障害や児童の抑うつ・心身症など『子どものこころの問題』が疑われた際、Tier1 でス クリーニングや簡単な相談が可能ですが、専門性が必要と思われた場合、重症度により Tier2-3 に紹介されます。Tier2 は発症して 1 年未満もしくは比較的軽症の場合、Tier3 は 発症して 1 年以上もしくは軽症といえない場合に紹介されます。Tier4 は入院管理になり、 Tier2-3 では診療が難しい場合に紹介になります。Tier2-4 は地域の保健センターや病院が 担当しますが、たいていの施設が Tier1-2, Tier2-3, Tier3-4, Tier2-4 と重なっているので、 治療を受ける先が度々変わることはあまりありません。

『子どものこころの問題』で Tier2 以降に紹介されると、一人の児につき 2 名が担当する ことになります。大抵は保健師もしくはソーシャルワーカー+心理士ですが、その 2 名が共 に児や家族の状況を確認し、週 1 回のミーティングで治療計画の発表や経過報告をしなが ら心理療法などを行っていきます。ミーティングには施設担当医師の参加は必須でNHS直 属の専門家も入ることがあり、NHS が提示する治療ガイドラインから外れていないか確認 が行われます。改善が乏しければ Tier3 となり、児の担当グループに医師が直接加わり、内 服処方などを行います。 それぞれの患者さんに電子カルテがあり、診療内容だけでなく、家族に電話をして伝えた ことや学校・GP とのやりとりなどを細かく記載するように義務づけられています。また、 患者さんや家族から 1 か月以上連絡がなければ、医療側から月を跨いで 2 回連絡し、それ でも連絡がとれないもしくは返答がない場合は終診というとりきめもあります。

以上のように、イギリスの医療はかなりシステマイズ化されており、医療を受ける側も行う側も流れが分かりやすいという良い面があります。一方で、日本のシステムは煩雑で はあるけれど、患者さん一人一人に柔軟に対応しているのではないかと感じます。

ロンドンにいる間に日本が学べる点として感じたのは、治療ガイドラインの普及と徹底、 各機関の連携の在り方などでした。一昨年に設立された福井大学子どものこころの発達研 究センター・子どものこころ診療部では、そのようなことに気を配りながら診療や研究を 行っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。