福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援 研究室

水島 栄

特別研究員

みなさん、はじめまして。福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援研究室の 水島さかえです。2013年6月より、福井大学附属病院子どものこころ診療部で臨床心理士として子どもとその家族との出会いを重ねております。

子どものこころの問題に対して大人にセラピーやカウンセリングがあるように、子ども用の心理療法として発展してきたプレイセラピーが私の専門です。プレイセラピーの歴史はまだ浅く、欧米では子どもの心理治療に用いられ、日本では療育の場面で発展してきたという経緯があり、まだまだ新しい分野と言えます。 プレイセラピーとの出会いは、1998年の英国留学時代に遡りますが、その前に私がプレイセラピーを学ぶに至った経緯についてご説明させていただきます。

アートワークショップ活動を通して・・・・ 大学時代は芸術学科で版画を専攻しておりましたが、美術科教員と博物館学芸員の資格取得のため、首都圏内の複数の美術館でアートワークショップの教育スタッフとして大学2年から25歳まで、春休み、冬休み、夏休みの長期休み等を利用して芸術普及活動を行っていました。アートワークショップとは、現役のアーティストから作品の作成方法や刺激を受けた子どもたちが、自分たちのイメージで作品を制作し、最後に展覧会を行うというものです。1日で終了する短期のものから、1週間の長期ワークショップなど様々です。教育スタッフは、子どもとアーティストのやり取りをスムーズにする、橋渡し的な役割を担っています。

アートワークショップの制作過程で、子どもは様々なことを教えてくれます。例えば、ある小学校1年生の男の子は、バスに乗って美術館にやってきましたが、緊張し過ぎてお金を払うのを忘れてしまっていると相談してきました。既に5日間のワークショップの三日目になっていました。そこで、その日の活動終了後にバス停まで一緒に行き、本人がバスに乗ってお金を払うところまで見届けました。本人はバスの中から満面の笑みでブイサインを出してきました。次の日、本人が「僕は、バスに乗ってちゃんとお金を払えるようになったよ」と、嬉しそうに、自信たっぷりに報告してくれました。この男の子にとって、アートワークショップは、作品を作ることプラス世界を広げる体験の連続だったのかもしれません。

また、ある時、小学校3年生の男の子がグループワークショップに参加しました。3人が一つのグループになり一緒に作業を行う中、いつも制服の様な服装で余計なことは一言話さず、黙々と作品を作り、作業に関してもSOSを一切出さない珍しい程礼儀正しいような子でした。5日間のワークショップを通して、結局その子は誰とも口をききませんでした。4日目の終わりに、その子のお母さんが私に恐る恐る話しかけてきました。「あの・・・うちの子は、自閉症なんです。」更に、「息子が昨日私に向かって、お母さん、ご飯、って言ったんです」と涙を流しました。涙を流す程、感動してしまう出来事だったと、お母さんから説明を受けました。普段自己主張をほとんどせず、母親を母親と思っているのかさえもわからない状態とのことでした。最終日に、そのお子さんの家族全員が作品の展示を見に来ました。本人の作品紹介には、誰よりも詳細な図鑑風の説明書きが添えられていました。家族に囲まれて少しだけ、本人の表情が緩んでいるような気がしました。

この体験は、私の人生に大きなインパクトを与えました。アートワークショップを通じて、子どもの声を聴く、子どもの語りを受け止めるということ、何も語らない場合でも、そこでしっかりと子どもを捉える、ということが子どもの成長や発達に必要なのではないかと考えるようになりました。 大学を卒業し、一般企業に就職した後にフランスの芸術大学に留学することになりました。マルセイユ芸術大学の研究生時代に、実験的に行われた留学生と現地の学生の共同作業によるアートワークショップメンバーとなりその時に「生きるために芸術が必要な人」と、「そうでない人」がいるのではないか、と思うようになりました。3週間ギャラリーの中で若手のアーティスト同士がぶつかりあう中で、自分の平凡さを痛感したのです。それと同時に、作品を作る過程が、何か特別な作用を個人に生じさせるという事に気づきました。それは、学生時代に行っていたアートワークショップの経験とも繋がりました。

イギリスに行きなさい マルセイユ芸術大学時代の私の指導教官に自分の率直な気持ちを相談しました。すると、「それは恐らくアートセラピーと言うもので、ここよりもイギリスの方がよいだろう、イギリスに行きなさい」と言われ、その後、イギリスに留学しました。留学先の大学で「子どもへの遊戯・芸術療法資格コース」に進学し、更に子どもへの心理介入に特化したプレイセラピーのコースへ進みました。美術教育分野から児童心理学へ進む人はあまりいないと思いますが、今となってみると全てが今の自分には必要だったのだと思います。

今思う事 これまで多くの子どもたちとの出会いの中で、大切なことは全て彼らが教えてくれたと思っています。発達の課題や、家庭の機能が不全なために心の中に安全感や安心感を得ずに成長している子どもなど、それぞれに抱えているものが違います。プレイセラピーは、子どものこころの言語である遊びを用いて、子どもの問題を把握し、状態の改善へと繋げていきます。臨床から得た知見から、一歩踏み込んで何故このような状態が生じているのか、ということを考えるようにもなりました。こころの問題を抱えている子どもと、そうでない子どもの違いは、何か。こころは、どこにあるのか。幼児期に育てにくかった子どもが、小学校高学年になると落ち着いてくるのはどうしてなのか。愛着は、人としての機能にどのような影響をあたえるのか。臨床の中から、たくさんの解明すべき宿題を頂いております。

現在、福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援研究室では、子どものこころの研究をこの春、新たにスタートさせる予定です。対象は、9歳から18歳までの健康な児童・生徒とその保護者様です。研究は、①お子様と保護者様への質問紙、②心理検査(概ね2時間程度)、③唾液検査とMRI検査(概ね1時間半程度)を行う予定です。※②と③は土日の実施となり、謝金のご用意があります。ご興味のある方は、fukuikodomo@gmail.com:件名に「子どものこころ研究参加希望」、そして、①お名前、②お子様のお名前と年齢とお書き添えの上、研究担当者:水島さかえまでご連絡下さい。皆様からのお問合せお待ちしております。

最後に、福井大学附属病院子どものこころ診療部では、子どもの脳の専門家である友田明美教授を中心とした子どものこころの問題を扱うスペシャリストによるチーム診療を行っております。お子様の発達の問題や、行動などについて不安を抱えておられる保護者の方のご相談をお受けしております。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。

福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援研究室

水島さかえ

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